道しるべの星 – HULS Gallery Singaporeでの個展

2024年12月6日~14日、加藤亮太郎 作陶展『Echoes of Flame』がシンガポールにて開催されました。会場となるHULS Gallery Singaporeがあるのは、ハイセンスなショップやレストランが並ぶダクストンヒル。常夏の日差しの中、華やかな街並みを抜けて、閑静な丘の上のギャラリーに足を踏み入れると、透明感あふれる静謐な空間に、桃山陶の世界が鮮やかに展開されていました。国際的な舞台で、どのような出会いが作家を待ち受けているのか ― 新たなインスピレーションと挑戦が始まろうとしています。(聞き手・構成 鶴岡優子)

久々に実現した海外の個展

シンガポールとのご縁

コロナが落ち着いてきた2022年ごろ、再び海外に出ていく機会を探していた時に、HULS Gallery Singaporeでの個展のお話を頂きました。代表の柴田裕介さんは、2017年にシンガポールで日本工芸を紹介するギャラリーを設立し、その後、東京赤坂で立ちあげたギャラリーで私の作品を取り扱ってもらっていました。日本工芸の魅力を海外にも広めたいという柴田さんの志に共感していましたし、また、シンガポールという国際都市で私の作品がどのように受け入れてもらえるのか、大きな可能性を秘めていると思い、今回の個展を楽しみにしていました。 2024年秋は古川美術館分館爲三郎記念館の「特別展 加藤亮太郎 半白記念展」、日本橋・壺中居の「2023年 日本陶磁協会賞受賞記念展」があり、さらにシンガポールでの個展に向けた準備を並行して進めていました。シンガポールに作品を輸送するには、配送や通関手続きなどに時間がかかります。前もって準備していた作品に加え、11月下旬の窯焚きで焼成した作品を、12月5日の飛行機で現地にハンドキャリーしました。五十歳の節目の年の集大成となる最後の個展でもありますし、最後までどの作品を持ち込むか、吟味して迎えました。

個展のコンセプト

この個展では、茶盌を中心に花器、酒器の新作、そして書でバランスを考えながら構成しました。シンガポールでの個展とはいえ、やはり自分のライフワークである茶盌はメインとして入口と棚に並べ、空間に並ぶガラスの展示台には花器を配置しました。窓の近くに展示した織部の花入は、自然光による色の変化が楽しめたのも良かったですね。 HULS Gallery Singaporeのとてもスタイリッシュな空間に、「撫」の軸をかけ、美濃のやきものを並べてみると、作品も良く見えて、私の空間として成立できたと思いました。シンガポールでも自分の世界観が作れて、とても嬉しかったです。

お茶を介した心の交流

シンガポールの色彩感覚

『Echoes of Flame』というタイトルにもあるように、穴窯の炎との共鳴から生まれる、美濃のやきものの世界を感じてもらいたくて、志野、瀬戸黒、織部、瑠璃黒、熟柿、椿手などの茶盌を幅広く並べました。 やきものの色に関しては、シンガポールの人たちは独特の好みがあるような気がしました。志野、瀬戸黒、瑠璃黒などバリエーション豊かな技法の中で、人気があったのは織部でした。また、意外と評判が良かったのが熟柿のような茶色系の茶盌です。シンガポールには色とりどりのプラナカン建築や、プラナカンタイルがあります。グリーン、イエロー、ピンクなど、華やかな色合いが好まれるのかもしれませんね。

「お茶」という共通言語

私が在廊した二日間、私の茶盌でお茶を点て、おもてなしする茶席を作りました。その中で、台湾茶の茶人の方がいらっしゃったのですが、とても喜んでくれて2回も来てくれました。日本の茶道と台湾茶は文化背景や形は違いますが、お茶を通じてホストとゲストが心を通わせるのは共通の精神です。私の茶盌を「台湾茶で使ってもいいですか?」と聞かれましたが、もちろん、使い方は自由でいいと思っています。 シンガポール在住の日本人で、有名なコレクターの方もご来廊いただきました。「まさかシンガポールで美濃の茶盌に出会えるとは思わなかった」と喜んでくださって、やきもの談義に花が咲きました。ちょうど大学時代の後輩がシンガポールで陶芸をやっていて、彼女の生徒さんやお茶のお仲間も大勢お越しいただき、茶席が華やかになりました。 日本文化に詳しいシンガポーリアンも足を運んでくださいました。HULS Galleryでの個展を知って、急遽駆けつけてくださり、「次は日本の幸兵衛窯でお会いしましょう」と話が弾みました。シンガポール国内で日本のやきものと出会う場はとても貴重なので、やはりHULS Galleryさんの存在はとても大きいと思います。

そして、旅は続く

いつかまた、シンガポールで個展を重ねられたらと思っています。それ以外では、日本文化に造詣が深いフランスも、個展をしてみたいと思っている場所です。私の作品とともに美濃桃山陶を世界の多くの人に知っていただきたいですし、多様な文化から刺激をいただき創作にも活かしていきたいと思っています。 五十代は出来るだけ外に出て行きたいと思っています。その始まりにシンガポールで個展ができたことで、道が大きく拓けたと思いますし、ここでもご縁の有難さを感じました。今後も機会を見つけて、積極的に海外に出て行きたいです。